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Channel: 布とお茶を巡る旅
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ものの命は人の命よりも長い

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「俺の仕覆」という本、私には少し高価(税込み4,180円)と思えて、
中身を見ずに買うのはちょっとした冒険でした。

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茶道具ばかりではなく、古伊万里の皿だって、バカラのグラスにだって……
古渡インド更紗にエルメスのスカーフ? トワル・ド・ジュイにはっぴの帯も!!
大胆な発想、そしてだれにも真似できない独自の布合わせ……
「仕覆界の最左翼」を自負する人気の作家20余年の仕事を振り返る。
掲載作100余点。オールカラー。英文付

山田英幸さんの作品を知ったのは昨年の月日荘さんでの企画展です。
今の私には名古屋まではなかなか出かけられないので
実際にはネットで画像を拝見しただけですけど。

その時に見たのはいわゆる茶道具の仕覆ではなくて、
トワル・ド・ジュイに包まれたバカラの器だったと思います。
ああ、大切なものを包むのが仕覆なのねと感心しました。
伝統的な仕覆つくりの手法にのっとりながらも、
なんて自由で美しいものなんだろうと感じました。

その時はただこういう作品を作られている方がいると思っただけでしたが、
今年もまた月日荘さんで展示会をされると知って興味津々。
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しかもその時期にちょうどNHKの「すてきにハンドメイド」に出られたと知って、再放送に間に合って拝見しました。

 私の大切を包む はじめての仕覆

30分の番組で仕覆の作り方を紹介するというのはそもそも無謀な話で、
おおいに消化不良でしたが、ギンガムチェックのインド綿の単衣を着こなす姿に
ますます興味がわきました。

調べると2022年に「俺の仕覆」という本を出されていることを知り、
ちょっとお小遣いがあったので思い切って本を購入したという次第です。

山田氏は10代のころから骨董やアンティークが好きで、
目黒にあったアンティークビルの骨董屋の女主人が店番をしながら
いつも茶道具のための仕覆を縫っていたのを見て興味を持ち、
「仕覆づくりこそ手芸の最高峰」というその女主人の言葉が
忘れられられなくて自分でも作ってみたいと始めたそうです。

そういえば閉店された青山の古民藝もりたの奥さまも、
いつだったか雑談のなかで
「亭主が見つけてきた器に服を着せるのが骨董屋の女房の役目でございます」と
笑いながら話してくださったことがありました。

私も烏龍茶に熱をあげていたころ、
茶道具のために自分で仕覆を作りたいと思った時期があって
調べたら上田晶子さんの仕覆の教室を見つけたので、
「習いに行こうかしら」と友人につぶやいたら、
私の性格を熟知している友人に「あなたには向いていないと思う」と言われて、
確かにあんな緻密な作業は私には無理かもと思いとどまりました。

なにしろ「終わり良ければ総て良し」が私のモットーなので。

さて本の話に戻ると、山田氏は仕覆をかけた器には、
さらに特注の桐の箱を仕立てて納め、
箱に懸け紙をして中身の名前を書き、
時にはその桐箱を包む木綿の風呂敷を作ることもあるというから驚きです。

「ものの命は人の命よりも長い」という言葉と
「そのものたちを愛した自分」という存在をも添えたい

それが山田氏の「俺の仕覆」というこのようです。

「俺の仕覆 山田英幸仕覆作品集」幻戯書房 2022年7月15日発行

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