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Channel: 布とお茶を巡る旅
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本で床は抜けるのか

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道草書店で「一箱本屋」のオーナーになったので、
自宅の本棚から何を持っていこうか選んでいたら、
まだ読んでいなかった本を発見!

とりあえず中身を確認しようと読み始めたら、
面白くてやめられなった本がこちら。

本で床は抜けるのか 西牟田靖
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大量の本とともに木造アパートの2階に引っ越し、「床抜け」の不安に襲われた著者は、解決策を求めて取材を開始。床が抜けてリフォームした人、蔵書をまとめて処分した人、私設図書館を作った人、等々を訪ね歩き、「蔵書と生活」の快適な両立は可能か探る。愛書家必読のノンフィクション。
この本はウェブ・マガジンに2012年4月~2014年7月連載されたもので、
2015年に単行本化、さらに2018年に文庫化されました。

つまり2024年現在、私が読んでいるのは10年前の状況なのですが、
「本を所有する」ことにまつわる蔵書家の心情には、
ほとんど変化はないと思えます。
(SNSや電子書籍に関する部分の変化は大きいですが)

私が興味を持ったのはタイトルの物理的に「床が抜ける」状況よりも、
「持ち主を亡くした本はどこへ行くのか」という章に書かれた、
井上ひさしや草森紳一など想像を絶する蔵書家の蔵書の行方です。

井上ひさしに関しては、前妻の(あの)西舘好子さんが登場して
デビュー当時から本のために家を建てるに至るいきさつを、
事細かに話しています。
のちにその蔵書22万点は故郷の山形県・川西町に寄付され
それをもとに「遅筆堂文庫」が設立されています。

一方、評論家・草森紳一が亡くなった時の状況は部屋には所せましと本が積み重ねられており、遺体はその合間に横たわっていた。あまりの本の多さに、安否を確認しに訪れた編集者でさえ、初日は姿を見つけることができなかった、という。(読売新聞・2008年7月30日号)
死後、32,000冊の蔵書は有志によって
「草森紳一蔵書整理プロジェクト」として整理され、
紆余曲折を経て北海道の大学に寄贈され、
出身地の音更町の廃校となった小学校にまとめて収蔵されています。

草森は生前、実家に「任梟盧」と命名した高さ9mにもなる書庫を作り、
そこにも3万冊ほどの蔵書があるとのこと。驚くばかり。

そのほか司馬遼太郎や松本清張のように、
作家の記念館に収蔵されていることもよくあるケースのようです。

しかしこのような幸運な蔵書の例は全体からみると少数のようで、
たいていの蔵書は死後売り払われたりして
散逸してしまうことのほうが多いようです。

その例として「雑学の大家」「サブカルの教祖」と呼ばれた
評論家の植草甚一の蔵書の行方が紹介されています。

ジャズのレコード4,000枚はタモリがすべて引き取った話は有名ですが、
蔵書のほうはまとまって保存はされず、散逸したと書かれています。

雑誌に掲載された夫人の話では、
「重荷でしかないのではやく手放して身軽になりたい」と語って、
生前から親しかった古書店に頼んで処分しているとのこと。
まぁ考え方によっては、本を市場に還元するという意味で
潔い選択なのかもしれないと結論付けています。

私はこの植草甚一の蔵書の行方を読んだ時に、
最近手たまたま読んだ沢木耕太郎の『夢ノ町本通り』で、
沢木が植草甚一の蔵書に関することを書いていたことを思い出しました。
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なかなか興味深い話に思えるので、紹介しておきたいと思います。
長くなるので、続きます。

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